もういないんだよなぁ。朋友を偲ぶ!「西田敏行お別れの会」

昨年10月17日に虚血性心疾患のため自宅で急逝した俳優・西田敏行さん(享年76)のお別れの会が3月18日、東京都港区の増上寺の光摂殿で行われた。
青春時代の一時期を一緒した懐かし朋友だ。俳優・西田敏行として芽生える前の季節のことと言えよう。
この日、偶然だが、板橋区加賀1丁目にある「植村記念加賀スポーツセンター内」にある、『植村冒険館館』にいた。
NHK文化センターの生徒を引き連れ板橋区加賀町界隈の散策におもむいていた。
西田敏行が演じた大作に『植村直己物語』(うえむらなおみものがたり)。昭和61年(1986)6月7日公開、がある。
世界的な冒険家・植村直己の後半生を描いたものだ。
その映画の山岳シーンが次々におもいだされた。
喜怒哀楽を縦横無尽に表現しながら活躍していた西田が。
ああ、そういえば亡くなっちゃったんだよなぁ。この日、こうなったのも、何かの縁なんだろうか。
と、思いはじめたらじわじわと。ここはひとまず、行かざなるめい増上寺。
とはいうものの、時間がたりない。だが駆けつけるだけでも本望としよう。
散策の終止を整えて急ぎ増上寺へと向かった。
新板橋駅から増上寺の最寄・「御成門」まで三田線一本で行けたのも好都合のことだった。



徳川家の菩薩寺として明徳4年(1393)に創建された増上寺。徳川秀忠をはじめ計6人の歴代将軍が埋葬されている。秀忠の正室・お江も眠っている。

西田が秀忠役を演じたNHK大河ドラマ「葵 徳川三代」(2000年)。秀忠臨終のシーンで「お江が眠る増上寺に葬ってほしい」と遺言を残した。

そんな背景があったことから「お別れの会」の会場として増上寺が選ばれたのだそう。
祭壇はすべて生花の造形。西田の生まれ故郷・福島の「磐梯山」をモチーフとし、「天鏡湖」とも呼ばれる「猪苗代湖」もあざやかに表現。花は福島の県花「ネモトシャクナゲ」208本や、桜の枝50本ほか、菊・桃・梅・ダリア・ソリダコなど計4000本の花で彩られた。
会場は閉じられる寸前だったので、一礼だけし、ファン用の献花台で手を合わせた。
「敏ちゃん!」。つぶやいたら涙腺がゆるみ思い出がこみ上げてしまった。

役者・西田敏行を懐う、人と魂を懐う!


西田敏行が、五大陸の最高峰登頂など数々の世界的偉業を成し遂げた冒険家・植村直己を熱演し、
高く評価された代表作。
『植村直己物語』は西田37歳のとき。気力も体力も絶好調だったと思う。
ひとつの執念に取り憑かれたように、大自然の驚異や怪異に個の肉体と魂で食らいつく西田敏行の姿は圧巻だ。 ぜひ見て欲しい!
植村直己が信条とした「自分の体で挑戦する」。その言葉を西田自らも役に言い聞かせていたのだろう。
そして自分と同じ団塊の世代に向け「奮起すればやれるんだぞ」という彼なりのメッセージを投げかけたかったのかもしれない。映画全般にそんな気迫が漲っている。
ともかくさりげなくさりげなく努力の人だ。
養成所時代のこと。
二期会のオペレッタ*『蝙蝠』でその他大勢(パーティー会場のボーイ7人)に選ばれた。中村 健、伊藤 京子、島田 祐子、立川 清登らが活躍していた時代だ。
「盃を上上げろ 上げろ」の合唱に合わせパーティー会場の間を縫ってシャンパングラスを配るだけの役。
稽古の合間、わたしや他のものはただボーッとしているだけなのに、西田だけは、物陰でぶつぶつ言いながら舞台への出方をいろいろ工夫しているのだ。真顔で真剣で。
いま懐かしく思うに、ああしたことが西田のもつ人知れぬ底力となっていたのだろう。
* ヨハン・シュトラウス2世 作曲の全3幕の オペレッタ。
吐き出すところをぎりぎりまで堪えて耐えて吐き出す。
我慢し、さらに我慢して…。そこから西田一流のアドリブも生まれる。
演じることの出来る役もピンからキリまで。その振れ幅がスゴい。歌も歌えて、芝居が出来て、バラエティーでも楽しませてくれた。味のある体型も個性として全てエンターテイナー化した。
西田の声。基本は 優しく明るい声だった。その声が可笑しいのに哀しくさせたり変化し、かつまた悲しくもなり楽しくもなる。演技の中に人の「優しさ」や「憂い」をコトバで醸し出すことのできる、素晴らしい役者だった。
西田が若いころ師のように仰いでいた俳優に中台 祥浩(ナカダイ ヨシヒロ)さんがいた。西田は「しょうこう」さんと呼んでいた。没年は昭和55年 (1980) 7月26日だから死してもう遙かな歳月。劇団青年座創立のメンバーで、中堅俳優として青年座のほとんどの舞台に出演していた。そんな中台さんと久しく酒でも酌み交わしているのではないだろうか。
懐い出したら♪「もしもピアノが弾けたなら」♪を歌うよ!
西田よ、懐かしい、望郷にも似た青春のひとときをありがとう!
戒名は芸月院敏那覚優居士(げいげついんびんなかくゆうこじ)。
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